先天性サイトメガロウイルス感染症の概要
- 胎児期(お母さんのお腹の中にいる時)に、母親がサイトメガロウイルスに感染することで、赤ちゃんに感染します。
- 生まれてくる赤ちゃんの約300人に1人がこの病気であるとの報告があります。これはダウン症(21トリソミー)の赤ちゃんよりも多いです。
- 先天性サイトメガロウイルス感染症でも症状がある赤ちゃんとない赤ちゃんがいます。症状がある赤ちゃんは、約2割で赤ちゃん約1000~1400人に1人です。2023年の出生数約73万人に基づくと、日本全体で約500~600人が先天性サイトメガロウイルス感染症で症状がある状態で生まれたと推測されます。
感染経路
- サイトメガロウイルスは、感染者の唾液や尿を介して感染します。
- 妊婦さんの周りに小さい兄弟姉妹がいる場合、特に注意が必要です。保育園や幼稚園で感染した子どもから、家庭内で母親に感染する可能性があります。
- 妊娠中(できれば妊娠前から)は、子どもの食べ残しを食べない、オムツ交換後やおもちゃに触れた後には手洗いを徹底することが重要です。特に保育士など子どもと接する仕事をしている場合は、日常的に手指の衛生を心がけましょう。
妊婦さんの症状
- 主に発熱や倦怠感など、風邪のような症状が現れますが、特別な症状がないこともあります。
妊婦さんの検査
- サイトメガロウイルスに対する抗体(IgM、IgG)の検査がありますが、全ての妊婦さんに検査を行うことは、世界的には推奨されていません。
- IgG抗体が陰性の場合、感染経験がないことを示します。この場合、感染リスクが高いため、予防がより重要です。
- 妊娠中にIgG抗体が陰性から陽性に変わることで、妊娠中に感染が診断されます。抗体検査の結果は、赤ちゃんの超音波検査などと併せて、産婦人科の先生に相談することが大切です。
妊娠中の治療
- 妊娠中に先天性サイトメガロウイルス感染症と診断されても、確立された治療法は現時点ではありません。
赤ちゃんの症状
- 低体重、小頭症(頭の大きさが小さい)、点状出血、黄疸、難聴、哺乳不良、けいれん、発達遅延などがあります。
- 生まれた時に症状がなくても、成長とともに発達の遅れが見られることがあります。
赤ちゃんの検査
- 生まれた後に診察やあ聴覚検査などを行い、症状を確認します。
- 先天性サイトメガロウイルス感染症が疑われる場合、尿検査でウイルスを確認します。検査は生後21日以内の尿で行う必要があります。21日を過ぎた場合、臍の緒や新生児スクリーニングで使用した血液を使って検査を行います。尿検査の感度が最も高いため最も推奨される検査です。
- 確定診断後、眼底検査やMRIなどの頭部画像検査、血液検査を追加で行うことがあります。
治療
- 赤ちゃんの症状や検査結果に基づき、治療が適応されるか判断します。
- バルガンシクロビルという薬を内服します。治療は生後2ヶ月以内に開始し、6ヶ月間続けます。副作用として、好中球や血小板の減少、肝機能障害、貧血が起こることがあります。
- 治療により、聴覚や発達の改善が期待されます。
まとめ
- 先天性サイトメガロウイルス感染症は頻度の高い疾患です。
- 妊娠前から感染予防を徹底することが重要です。特に兄弟がいる場合、食べ残しを避け、オムツ交換やおもちゃを触った後には必ず手を洗うこと!
- 診断は生後21日以内に尿検査で確定します。
- 内服治療により、聴覚や発達の遅れを予防できる可能性があります。
感想
予想以上に多くの赤ちゃんが先天性サイトメガロウイルス感染症にかかっていることに驚きました。私の家庭でも、次男を妊娠中に長男の食べ残しを妻はよく食べていました(幸い、次男は何事もなく生まれましたが…)。多くのまだ小さい兄や姉のいる家庭は同様の状況ではないかと思います。まずは先天性サイトメガロウイルス感染症の存在を広く知ってもらい、予防できる方法があることをもっと広めたいと強く感じました。
参考文献
岡明. 先天性サイトメガロウイルス感染症診療ガイドライン2023.診断と治療社,2023
日本産婦人科学会.産婦人科診療ガイドラインー産科編2020.好学,2022
“サイトメガロウイルス、トキソプラズマ等の母子感染の予防と診療に関する研究班 サイトメガロウイルス妊娠管理マニュアル2024(第3版)”.国立研究開発法人 日本医療研究開発機構.. http://cmvtoxo.umin.jp/_assets/pdf/manual_cmv.pdf(2024.9.11)
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